ワークショップについて(1)
この前、デスロックの元メンバーの橋本清に、昔多田さんのブログにワークショップの具体的なプログラムが書いてあって参考になった、と言われたんだけど、全く記憶になく、でもそりゃ書いてあったら参考になるだろうねということで、キラリふじみのACT-Fの活動や、今年度から始まった高松ワークショップLab.で久々にワークショップ開発もしているので、あくまで演劇のアーティストであることと、公共劇場の芸術監督や自治体でのアートディレクターなどの経験を踏まえた視点からになりますが、ワークショップについてのエントリーをいくつか書いてみようと思います。
【ワークショップってなんだろう】
ワークショップは、もはや一般的に認知されている、としますが、ただワークショップ観はかなり多様です。
基本的には、
「ワークショップ=体験型講座」
で良いと思いますが、体験型の講座ならサッカー教室やお料理教室もワークショップなのかと、
まぁその辺り微妙なところではありますが、そもそもサッカーを体験しないで学ぶなんてことはないでしょうから、
「ワークショップ=体験により参加者の自発的な発見、成長を促す手法、またはその手法を使った講座。」
くらいにしておくと良いのかもしれません。
体験は、人それぞれですから、強制的に発見、成長を促してはいけません。目指すくらいで良いでしょう。
教育的=達成を目指すものも除外していいと思います。
その辺りが学校やカルチャースクールと違うところです。
大まかにワークショップの種別を分けるとしたら。
・アート系
音楽、演劇、美術、ダンスなどの芸術体験による様々な効果を目指すもの。
・技術系
裁縫、料理など、体験によって技術獲得を目指すもの。
・社会・教育系
企業、教育現場、地域コミュニティの現場でフィールドワークや意見収集、合意形成などを目指すもの。
・系連携系
演劇による介護のワークショップ、写真によるまちづくりワークショップなど、特にアート系の特徴を社会活動に還元
していく場合が多い。
といったところでしょうか。
今後さらに必要とされていくのは最後の系連携WSでしょう。
特にアートを用いたワークショップは、その是非も問われていますが、個人的にはアリだと思っています。
系連携はWSの進化系とも考えられますが、WSの原型とも考えられます。
まぁその辺りは学問の人にお任せしたいと思います。
あとは公募型なのか訪問型なのかでも大分変わりますね。
これは目的、対象によって変わります。両方の要素がある場合もあるでしょう。
・公募型 参加者の参加理由がある程度明確。
・訪問型 学校の授業、企業、地域など参加者の参加理由が多様。
訪問型はアウトリーチと言われることも多いですが、
例えば劇場のアウトリーチ活動で公募型ワークショップを行うということもあるので、とりあえず訪問型としておきます。
ワークショップを考える際に基本となる要素は、
・目的 能力育成、まちづくり、健康増進 など
・対象 年齢、地域、経験、特定、非特定、公募、非公募 など
・手法 芸術、技術 など
この3要素がほぼ全てです。この3つだけ聞いて面白そうなら、それは良いワークショップなのだと思います。
人的構造としては
・主催者
・対象者
・実践者
そしてワークショップの実践は
・プログラム
で、できています。
【良いワークショップとは/公共劇場が主催者の場合】
例として公立劇場が主催する高校演劇部員を対象としたワークショップを二つあげます。
ワークショップA
・対象 高校の演劇部
・目的 部員の演技力向上
・手法 演劇/発声練習、テキストを使った具体的な演技指導
ワークショップB
・対象 高校の演劇部
・目的 自己の相対化、他者への想像力を育む。
・手法 演劇/自分自身、友達を演じてみる。
どっちが良いワークショップか。この二択は色々な要素を含んでいます。
結論から言うと、どちらかといえばBの方が良いワークショップです。
演劇部の顧問にとっては、もしかしたら生徒にとっても、Aの方が良いワークショップという場合もあるでしょう。
劇場としても、演劇部が上手くなって生徒も学校も喜ぶ、演劇に携わる人が喜ぶAの方が一見良さそうですが、
ここで目的に注目してみると、AとBでは目的が違います。
A 演技力向上
B 自己の相対化、他者への想像力を育む
さて、公立文化施設が設定する目的としてふさわしいのはどちらでしょうか。
高校演劇の全国大会に生徒を送り出すことが町の誇りでそれで町の経済も成り立っている、
ということであれば、Aの目的でも良いかもしれません。
一応プロの演出家として言わせてもらえば、
実はBのプログラムの方が演技が上手くなる可能性は高いです。
生徒同士の発見にもつながりますから今後の部活動にも役に立つでしょう。
高校演劇における演技が上手くなるかは別ですが。。。
少なくとも、演技が上手い子にも、下手な子にも、
卒業後演劇を続ける子にも、演劇をもうやらない子にとっても、良い体験になるとは思います。
まぁ自分がアーティストとして演技指導に全く興味がないというのはありますが。
演劇を体験することで人生を生きやすくするためのことだったらいくらでも協力します。
公共劇場や自治体などで芸術を用いたワークショップを考えるときに、なぜかワークショップAに陥りがちです。
最も公な立場から、その真逆に行こうとしてしまうのはなぜでしょうか。
それこそ芸術は趣好者のものであるという偏見だと思います。
芸術は人類共有の財産です。公の立場で芸術を扱う人には特に気をつけて欲しいです。
ただこれは主催者が公の立場という前提です。
主催者が企業であればその企業にとって最大の利益があれば良いでしょう。
個人的にはそれがその企業のためだけにならない方がより良いとは思いますが。
言ってしまえば、世界平和につながると思えるかどうかだと思います。
それはワークショップに限らずですが。
あとは趣好者たちによりマニアックな現場を提供するということもありでしょう。
誰が何のためにやるのかは様々な組み合わせが成り立つということが前提ですが、
間違った組み合わせもあるということです。
良いワークショップならば対象も広い方がいいですね。
特に芸術はパブリックなものです。演劇部だけに体験してもらうのは勿体無いので対象を広げてみます。
・対象 高校生
・目的 自己の相対化、他者への想像力を体験し、コミュニケーション能力を育む。
・手法 演劇の手法で普段の自分、友達を演じてみる。
としてみましょう。
対象が高校演劇部から一般の高校生になると、プログラム内容もかなり変えなくてはいけません。
クラスには演劇どころか学校にいるのも嫌だという子も混ざっているわけですから。
では次回は具体的にプログラムはどうしたらいいのかを考えてみます。